√3は3の倍数である

数弱は焦っていた。テスト終了まで、残り時間はわずか。依然として埋まらない解答欄。何か、何か書かなくては。数弱は、無心でシャープペンシルを走らせた。最後の気力を振り絞る。そこでテスト終了を告げるチャイムが鳴り響いた。——やりきった。白い解答欄の中で、『n=√3α(αは整数)よりnは必ず3の倍数となる』、この文字列が一際輝いていた。

再会

先日の記事で書いた「ちょっと会うのが気まずい男」と再会した。現在めちゃくちゃ酔っ払っているが、こういうのは新鮮さが大切だと思うので書く。

 

男と再会したのは同窓会だ。元々女子だけ、少人数で集まっていたのだが、せっかくだし男子も呼んでみない? という話になって同窓会が開催された。

男を呼んだのは他でもない、私である。

高校時代は一度も連絡を取らなかった男に対して、女々しくも連絡先を十年間(!)残し続けていた私は唯一の連絡先所持者であり、否が応でも窓口とならざるを得なかった。

酒の勢いで「今度同窓会あるから来ない?」とメッセージを飛ばし、一時間に一度は返信がないか確認していた。本当に女々しくて涙が出る。

男からの返信は諦めていたが、半日後「連絡ありがとう」「参加する」と返事が来た。

同窓会当日まで気が気ではなく、当日は一時間以上かけて顔面を作成した。あまり早く着きすぎても男と何を話せば良いか分からないだろうから(男は絶対に集合時間十分前に到着しているタイプなのだ)あえて時間ギリギリになるように店へ向かった。

集合時間丁度に店へ着いた。「ごめんお待たせ〜!」と言いながら合流することはあらかじめ決めていた。だから開口一番は大変スムーズで、何の違和感もなかったと思う。

男はそこにいた。良い意味で変わらない、あの頃のままの姿で背ばかりが伸びていた。小学校の頃より随分背が伸びたことは高校時点で把握していたが、すっとぼけて「背伸びたから全然わかんなかった〜!」などとほざいた。背が伸びたことはおろか、進学先まで把握していたけれど知らないふりをしていた。激重すぎるためだ。

参加者が集まって、店に入った。男とは席が離れていたから、ずっと当たり障りのない会話をしていた。しかし宴もたけなわとなり、自然と席がぐちゃぐちゃになった頃に男が隣にやってきた。何を話せば良いのかわからず、相変わらず卑怯な私は必要以上に酔ったふりをしていた。

喧騒の中、男は私に謝った。

中学校の頃、高校の頃、ずっと私に謝りたかったと語った。私が男の好意に迷惑していたと感じ取っていたらしく、「俺から謝るべきだった」と語った。男は就職先が県外で、私からの同窓会の誘いは謝る最後のチャンスだと思って乗ったらしい。私は酔ったふりも忘れて「私の方が悪かった」と謝った。言葉にしてみればなんてこともない、失われた十年はたった一言で救われてしまった。

「なんだよもう! お互いに申し訳ないな……と思ってただけかよ!」と悪態をつきながら机に突っ伏した私を、男は「泣いてんの?」と笑った。「泣いてないわ!」と言ったけれど、本当は泣いていたのかもしれない。

予定になかった二次会までみんなで行ったから、現在院生の男は持ち金が足りなかった。私が男のぶんまで払った。金を返さなきゃいけないならまた会ってくれるでしょ、というこれまた大変女々しい発言を残して店を出た。家まで男が送ってくれて、また会おうねと言って別れた。

玄関の鍵を開ける際、頬を撫でる風はぬるく、馬鹿みたいだけど、ちゃんと生きてて良かったと思った。また会えたら良いな。