√3は3の倍数である

数弱は焦っていた。テスト終了まで、残り時間はわずか。依然として埋まらない解答欄。何か、何か書かなくては。数弱は、無心でシャープペンシルを走らせた。最後の気力を振り絞る。そこでテスト終了を告げるチャイムが鳴り響いた。——やりきった。白い解答欄の中で、『n=√3α(αは整数)よりnは必ず3の倍数となる』、この文字列が一際輝いていた。

銀の庭

本日は国際女性デーらしい。Twitterで色んな話が流れてきて、思い出したことがあるので書く。

 

ガキ時代は性自認があやしく、友達が男子ばかりだった。ファイアトルネードを出すためにサッカーをしていたし、Sケンでそこらじゅうに痣を作りまくっていた。ほうきと雑巾で野球をして「ちょっと男子〜!」とキレられる対象だった。クソガキだったのである。

でもそれも小学校高学年までで、性差が明確になる頃には立派な「女の子とのかかわり方がわからない社会不適合者」になっていた。今まで通り男子達と馬鹿をやりたくても「女とつるむのはちょっとね……」と敬遠されるし、実際身体能力の差も生じ始めていた。じゃあ女の子と仲良く、といっても嵐とキムタクの違いもよく分かっておらず、「男に媚び売ってる」判定を食らっていたガキが上手くいくはずもない。

教会に通っていたので、土日に遊んで仲良くなる、なんて選択肢もなかった。学校の居心地が悪くなりはじめたタイミングで両親が離婚し、家までクチャクチャになったので最終的に居場所は本の中になった。

そんな状況でも変わらず仲良くしてくれた男の子がいた。毎日のようにお互いの家でゲームをして遊んでいて、私は彼を親友だと思っていた。しかしガキ時代ならまだしも高学年になってもそんな事をしていると噂になる。いつのまにか「あの二人は付き合ってる」ということになっていて、毎日はやし立てられるようになった。

それがすごく嫌だった……訳ではなく、当時は「あの二人付き合ってるらしいよ」と笑われることに対して「それくらい仲が良く見えるのは喜ばしいね!」と思っていた。この先も一緒に遊べるなら自分たちの関係にどんな名前がつけられても良かった。

だから彼から「付き合ってほしい」と告白された時も「堂々とずっとゲームできるってこと?」としか考えておらず、二つ返事で「いいよ! 私も好き!」と答えた。

キリスト教情報統制+父と母のいない家庭で育ったので、現実の恋愛がどんなものか理解していなかった。恋愛フローチャートが「①一緒にいて楽しい(前提条件)」「②なんか手とか繋ぐ(過程)」「③将来的に結婚する(着地点)」というガバ加減で成り立っており、フローチャート①は満たしていているから、②に進むのも当然の流れかもな〜と受け入れた。単細胞だったのでちゃんと手を繋いだし、デートっぽいこともした。

そしてしばらくが経って、気づく。付き合う前の方が楽しかったことね? と。

別に手とか繋ぎたくなくね? と思いながら中学校に入学して、彼とは疎遠になってしまった。マンモス校だったのもあるが、私自身が彼を避けていたことが大きい。恋人っぽいことするの苦痛じゃね? と気づいてしまったので、申し訳なくて顔向けできなくなった。そのくせ自分からごめんなさいを言う勇気もなかった。コイツとやるゲームが絶対一番面白い! という確信があったから、どうにかして前みたいな友達に戻りたかった。

避けちゃってごめんね、って謝りたい……そして友達に戻りたい……などとモタモタしているうちに中学を卒業して、高校生になってしまった。実は高校も同じだったから、話すチャンスはいくらでもあった。猶予期間は中高六年間もあって、でも全部無駄にしてしまった。遂に大学で進路が別れて、その後彼がどうなったのか私は知らない。

 

以上、友情と恋愛履き違え迷惑女の昔話。

これは強烈なトラウマを私に植え付けた。現在に至るまで恋愛した〜い! という気力が一切湧かない。男友達を作ろうとも思わない。いつか失うのが怖すぎる。

引きずりすぎで笑っちゃうけど、未だに彼の夢を見て魘されたりする。安易に「いいよ!」とか言わなければ良かった。うっすら感じた嫌悪感を無視し続ければ良かった。避けたりしなければ良かった。何より、私が女じゃなければ良かった。

男に生まれていたら良かったのに、と思う。そしたら今でも幼なじみの親友としてゲームができたかもしれないのに。

でも結局私の卑怯さが招いた事態だから、性別なんてものは一つの要素でしかない。たらればで考えても過去は過去だし、私の身体は女だし、相変わらず恋愛はよくわからない。


実は今度彼に会う機会がある。

実現するかはわからないけど、ちゃんと会って話がしたい。もう10年以上前の出来事をずっと気にしてる女とか重すぎでバカウケ必至だし、彼にはすっかり忘れ去られてる気もする。でも彼が私のことなんてなかったことにして楽しくやっているのだとしたら、ようやく肩の荷を下ろして次に進める気がする。

なんかここまで来ると「友情と恋愛履き違え迷惑女」ではなく単に「激重初恋引きずり迷惑女」かもしれない。実はちゃんと恋してたのかも。

様々な経験からようやく悟ったけど、私は一度手に入れた物や環境、関係にものすごく執着するタイプらしい。変わらないものなんてないのにね。ずっと君の銀の庭を歌い続ける化け物になるか〜。