√3は3の倍数である

数弱は焦っていた。テスト終了まで、残り時間はわずか。依然として埋まらない解答欄。何か、何か書かなくては。数弱は、無心でシャープペンシルを走らせた。最後の気力を振り絞る。そこでテスト終了を告げるチャイムが鳴り響いた。——やりきった。白い解答欄の中で、『n=√3α(αは整数)よりnは必ず3の倍数となる』、この文字列が一際輝いていた。

まだ生きています

11月になりましたね。教室から見える中庭の木はすっかり紅葉して、地面には沢山の枯葉が落ちています。
そんな風に秋も深まり、最近は寒いのでタイツばかり履いています。
タイツばかり履いていたら、某方に「オタク女は冬場タイツ履きがちだからすぐ見つけられる」等言われてウルッセーんじゃボケコラカスぶっっっっ殺すオタク女で〜〜〜す悪ぃか!!!!!!!!!!!!!!!!!といった気持ちになりました。つい怒りを覚えてしまうのも、最近の学校生活にはストレスしか溢れていませんから、仕方の無いことと言えます。
さて、受験生らしい話をしましょう。
センター試験までもう70日を切り、教室では休み時間中であっても静かに参考書を開く姿や、明日の予習に取り組む姿、勉強によって足りない睡眠時間を補うように、机に突っ伏す姿が見えるばかりです。かつてのような、黒板に落書きをしてげらげら笑う姿も、お菓子を分け合って談笑する姿も、もはや失われた産物であり、日常から淘汰されてしまったのです。
そんな「この時期らしい」教室で私が何をしているかというと、おかしなことに全く記憶がありません。
一切覚えていないのです。一日の大半を過ごしたはずの、教室での出来事というものが、私の記憶から全て抹消され、削ぎ落とされているのです。私は一体、どのように休み時間を過ごしていたのでしょうか。どのように授業を受けていたのでしょうか。そこには確かに、流れた時間が存在しているはずなのに、「無かったこと」になっている現在、その空白に何を当てはめれば良いのでしょうか。
私はその空虚を埋めるように、ただただ、家に帰って眠ることをしました。虚しくて仕方が無いのです。変わっていく環境にも、生活にも、何一つ耐えられず、私は音をあげて布団に潜り込みます。

そんな生活がしばらく続いた木曜日の事でした。
4教科赤点を取った私は期末対策学習会への出席が義務づけられていたため、対策学習会に出席した後、さっさと帰ってしまおう、と急ぎ足で荷物のある教室へ向かいました。
教室、とは私の最も嫌う空間ですから、いち早く荷物を回収してとんずらする必要があります。私の肺は五分としてその空間の空気に耐えることができません。なぜなら私はナウシカだからです。私はナウシカ、私はナウシカ、私は愛される象徴としての、自然からも人からも愛されたナウシカ……
そんなわけで、私は半ば走るようにして教室に入りました。もちろん、音を立ててはいけません。教室では多くの生徒達が自主学習に取り組んでいるのです。
そこで、ああ、私は見たのです。
私の席の隣で、一人。全員が正面の黒板に向かって座り、黙々と学習に取り組む教室とは不釣り合いな姿勢で──具体的に言うなら、壁を背にして足を組んで漫画でも読むような格好をして、しかし参考書は開いておくか、といった姿勢──我が底辺部の顧問がいたのです。
その瞬間、私の中で燻っていた「どうして私だけ」といった被害者意識は打ち砕かれました。

そうだ、独りじゃなかった。

私はやっと、この単純な理論に気が付き、思わず涙でも出てきてしまいそうな気持ちになりました。そうでした。何も被害者が私だけであるはずがないのです。だってほら、目の前に、同じ被害者が確かに存在している!
そんなわけで、その日は顧問と一緒に流れでコメダに寄って帰りました。
こうして、私はまだ生きています。死んだ時はちゃんと地獄からツイートするので皆さん待っていてくださいね。